M&A・事業承継における財務デューデリジェンスの重要性について

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M&A・事業承継における財務デューデリジェンスの重要性

【財務デューデリジェンスとは】

 以前のコラム(M&A・事業承継と外部アドバイザーの関与)で、M&Aの実務において、デューデリジェンスを実施することについて記載しました。

 

 デューデリジェンスは、M&A・事業承継の世界では買収監査と訳されることが多く、具体的には、買収を考えている会社(対象会社)の分析や財政状態の把握・調査、特許の状況、人事関連の調査など、対象会社を買収するに当たって必要な調査を行うことを一般的にデューデリジェンスと呼びます。(売却側が実施するデューデリジェンスをセルサイドデューデリジェンスと呼びますが、こちらに関しては別コラムで詳細を記載しようと思います。)

 その中でも、公認会計士が主体となって行うのが、対象会社に対する財務的側面からの調査であり、これを財務デューデリジェンスと呼んでいます。具体的には、過去の財務諸表を基にした対象会社の正常収益力の分析やある一定の基準日における貸借対照表が適切に作成されているかについて調査・確認を行うことになります。

 その他のデューデリジェンスとしては、弁護士が行う法務デューデリジェンス、不動産鑑定士が関与する不動産デューデリジェンス、ITデューデリジェンスなどもあり、どのような専門家がデューデリジェンスを実施するかについては、以前のコラム(M&A・事業承継における外部アドバイザーの役割)でも記載しているので、そちらを参照頂ければと思います。

 

 それでは財務デューデリジェンスについて見て行きましょう。

 

【財務デューデリジェンスの重要性】

 以前のコラム(M&A・事業承継における企業価値評価)で、企業価値評価については将来の収益・キャッシュフローが重要であることについて記載をしました。この企業価値評価における将来の収益・キャッシュフローについては、主に将来の事業計画(主として5ヵ年計画)を基に計算されることになります。

 つまり、企業価値評価において、最も重要な情報の一つは、「将来の事業計画」になります。そして、この将来の事業計画に関しては、ほぼ全てのケースにおいて、「現在の財政状態」と「過去の収益」を基に作成されています。ここに、将来における新規ビジネスや様々な予測・見込みなどが織り込まれて最終的な事業計画が作成されます。

 

 もちろん、この将来の事業計画については、作る人によっても異なりますし、作る人の立場(M&A・事業承継における買手か売手か、もしくは社内のどの部署のどのレベルの人が作ったのか)によっても異なります。

 すなわち、将来の事業計画に関しては、答えはありません。あえてあるとすれば、多くの人にとって納得感がある事業計画、つまり多数決のようなものでしょうか。それでも、将来のことは誰にも予測できないので、答えは将来になるまで出ません。多くの人が間違うケースも山ほどあるでしょう。

 

 しかしながら、それでもM&A・事業承継では、企業価値評価を行わなければなりません。

 だからこそ、少なくとも多くの人に納得してもらえる事業計画を作成して企業価値評価を行う必要があり、その事業計画の発射台となる「現在の財政状態」と「過去の収益」については、最も重要な情報であり、まず始めに確認しなければならない内容になります。

 そして、「現在の財政状態」と「過去の収益」を作成している人(会社)はあくまでも売手の立場であり、M&A・事業承継の買手の立場とは相反する立場の人間になります。

 そのため、M&A・事業承継の買手は、必ずしも売手が出してくる情報を鵜呑みにすることはできず、会社が作成している資料の正確性を含め、第三者的立場から批判的に検証する必要があります。

 

 以上から、M&A・事業承継の実務において、この財務デューデリジェンスは最も重要な作業の一つと言っても過言ではないでしょう。

 

【財務デューデリジェンスによくある誤解】

 財務デューデリジェンスについては、その重要性にもかかわらず、意外と中小企業のM&A・事業承継においては軽視されがちです。そもそも財務デューデリジェンスに対する理解が少ないのも一つの理由ですが、以下の3点が主な理由として挙げられるのではないでしょうか。

・財務デューデリジェンスを実施するための費用がかかる。
・財務デューデリジェンスを実施すると、M&A・事業承継の最終的な合意までの期間が延びる。また、問題が見つかると基本合意自体が破談になるため、売手からすると実施して欲しくない。
・財務デューデリジェンスに対して、売手の会社担当者は資料の用意や質問対応などに労力が割かれる。また、中小企業では、財務デューデリジェンスに対応するための資料等がきちんと作成されていないことが多い。

 

 そして、よくある誤解の一つが、きちんと税務申告を行っており、税理士が適切に処理しているから、決算書(損益計算書・貸借対照表)については「問題がないはずだ」というものです。

 しかし、残念ながら、いくら優秀な税理士が適切に税務申告を行い、しかもきちんと税金を支払っていたところで、財務デューデリジェンスや企業価値評価においては重要な意味をなしません。(もちろんきちんと税務申告をしているという点ではデューデリジェンスでの評価には関係してきます。) 

 なぜなら、企業価値評価における「決算書」と税務申告における税務目的での「決算書」とでは、目的が全く異なっているからです。すなわち、財務デューデリジェンスでは、「現在の財政状態」と「過去の収益」などから、「現在の純資産額がどの程度ありそうか」や「将来どれくらい収益を生みそうか」などについて焦点を当てて調査を行っているからです。

 貸借対照表については、税務上損金に算入できるかどうかに関わらず、企業価値評価の一環として、重要な項目については時価評価を実施します。

 もしくは、税務上、節税目的で計上している損益計算書上の項目について、将来の収益性を見る上では不必要な費用であると判断した場合には、費用項目から外すことを行ったりします。(逆に、収益を良く見せるため、税務メリットをとらず、費用を先延ばししているケースもあります。) 

 

 以上から、適切な税務申告を行っていたとてしても、財務デューデリジェンスは実施した方が良いでしょう。

 

【まとめ】

 以上簡単に財務デューデリジェンスの重要性について見てきました。M&A・事業承継においてデューデリジェンスを実施しないことは、不動産の売買において、内覧をせずに不動産を買うようなものです。もちろん、内覧をしたからといって、全ての不動産の瑕疵が分かるわけではなく、デューデリジェンスを実施したからといって、対象会社の全ての事業に係るリスクや問題点が洗い出されるわけではありません。

 しかしながら、M&A・事業承継を行った後に、実際に対象会社の状態を確認してみたら、様々なリスク・問題点があって取り返しが付かないことになった、などと後悔する前に、最終合意の前にデューデリジェンスをできる限り行っておくことをお勧め致します。

 次回以降では、財務デューデリジェンスにおいて最低限確認しておいた方が良いポイントについて解説して行きたいと思います。

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