M&A・事業承継後のExit手段としてのIPO

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M&A・事業承継後のExit手段としてのIPO

Exit手段としてのIPO

 IPO(Initial Public Offering)と聞くと、名もないベンチャー企業が幾多の苦労の末、証券取引所(日本の場合は主に東京証券取引所)に上場し、筆頭株主である経営者が多額のお金と上場会社の社長という地位と名声を手に入れるサクセスストーリーを思い浮かべる方が多いでしょう。

 しかしながら、このIPOという手段については、何もベンチャー企業に限った話ではありません。実は、多くのファンド(ベンチャーであればベンチャーキャピタルファンド、ある程度の優良な成熟企業であればプライベートエクイティファンドなど)のExit手段にもなってますし、上場会社の経営陣がMBOを行い、非上場化を行った後、再度上場を目指す場合にIPOが実施されます。

 こういった手法は日本では2000年代に入ってから特に活発に行われていますし、MBOの事例でも近年ではワールドが2005年にMBOを行った後、13年の時を経て、2018年6月に株式の上場を東京証券取引所に申請しています。また、JALのケースでは、会社更生法の申請により上場廃止となった後、経営再建を経て、2012年9月に再度上場を果たしています。

 このように、IPO自体は、ベンチャー企業に限った話ではなく、ファンドやMBOなどについてもExit手段として多く使われています。また、ここ最近では非上場企業同士のM&Aが活発に行われ、非上場企業の規模が集約化されてきていたり、事業承継において経営者層が若返ることで、経営方針が変化してきたりしています。そのため、今後はベンチャー企業やファンドだけではなく、M&Aによって規模が拡大してきた地方の非上場企業や昔ながらの優良な非上場企業についても、将来的にIPOを検討する可能性が増えてくるのではないでしょうか。

 そこで、当コラムでは、IPOに焦点を絞って、押さえておくえきポイントを何回かに分けて、簡単に記載していきたいと思います。

 

最近のIPO

はじめに】

 2018年6月、株式会社メルカリが日本初のユニコーン(*1)として東証マザーズへの上場を果たしました。業界内外の優秀な人材が集まった豪華経営人は“ゴールデンチーム”とも呼ばれ、上場初日には時価総額7,000億円を超えました。今後は米国を足掛かりに、世界展開を着実に進める計画のようです。

 そんなメルカリであっても、IPOは計画通りにはいかなかったようです。

 当初、2017年内の上場を目指していたものの、ユーザーの違法出品等が相次ぎ、その対応のために6か月以上の延期をせざるを得なかったと報道されています。このようにどれだけ完璧な布陣で臨んだとしても、IPOでは不測の事象から延期をせざるをえない場合や、上場申請を取り下げる決断をしなければならない場合(*2)も多々あります。

 したがって、IPO準備は、細心の注意で綿密な計画をたて、しかし一方で、限られた時間で大量のタスクをこなす必要があり、難易度の高いプロジェクトとなります。

(*1):企業価値の評価額が10億ドル以上の非上場会社を指します
(*2):最近では株式会社インバウンドテックが今年6月に上場申請の取り下げを行っています。

 

【最近のIPOの動向】

 日本の証券市場の中心である東京証券取引所(東証)における近年のIPOの動向を見てみましょう。


出典:日本取引所HPより集計
*テクニカル上場等を除く

 2000年代初期はITバブルを背景にIPOの数が最高水準であったものの、サブプライムローンやリーマンショックの影響で2009年にはIPOが19件まで落ち込みました。その後、開示書類の簡素化等の規制緩和によりIPOの敷居が下がったことなどにより、緩やかな増加傾向にあります。

 しかし、ここ2,3年の間に新たな資金調達方法等が台頭し、IPOを実施するインセンティブが下がる要因も出てきています。

 

【新たな資金資金調達方法の台頭】

 IPOを実施するインセンティブが下がる要因の一つに、IT技術の進化が挙げられます。近年、IT技術の進化は加速度を増し、私たちの生活を急速に変えています。特にFinance(金融)とテクノロジー(IT技術)を融合した”Fintech”は、あらゆるビジネスを一変させています。資金調達方法もその一つです。

 IPOの大きな目的の一つである資金調達の領域においては、Fintechを利用した「クラウドファンディング」や「ICO(Initial Coin Offering)」がここ2,3年で盛んに行われるようになりました。IPOに比べより簡便・迅速に、そして時には多額の資金調達を行うことができることから、小規模なビジネスを行う個人から革新的な技術をもつベンチャー企業まで幅広く利用されつつあります。

 今後も、Fintechを利用した資金調達は増加すると思われます。

 

【ベンチャー企業のExitの変化】

 IPOを実施するインセンティブを下げる要因のもう一つに、「ベンチャー企業のExitの変化」が挙げられます。Exitとは、ベンチャー企業の創業者や株主が株式を売却して利益を手にすることで、一般的に、Exit方法は大きくIPOとM&Aの二つに分けることができます。

 IPOに成功すれば、持分比率の高い創業者は時には数百、数千億といった多額の資産を築くことができるとともに、「上場企業の社長」という名声も手に入れることができることから、長年(特に日本では)主要なExit方法とされてきました。

 しかし、近年、「大企業が創業間もないベンチャー企業を高額で買収する」といったM&AによるExitも目立つようになってきました。

 この背景には、「革新的な技術や発想をもったベンチャー企業」と「機動力はないが資金力のある大企業」のニーズがマッチしていることに起因していると思われます。つまり、近年のIT技術の発展により小資本で革新的な技術等の創造はできるものの、それを強化し広めるためには迅速に多額の資金が必要であるといった、ベンチャー企業と大企業のニーズが一致してきていることが要因の一つではないかと思います。

 

まとめ

 資金調達方法の多様化や大企業によるベンチャー企業の買収により、IPO以外の選択肢を選ぶ企業が増えてきていることは確かです。

 しかしながら、クラウドファンディングやICOは単なる資金調達手段の一つですし、創業間もないベンチャー企業が大企業にM&Aされることは資金調達が実施できる代わりに、経営権を手放すことになります。

 この点、IPOであれば、資金調達と上場会社の社長として経営を継続できるという両方を同時に行うことができます。また、何よりもIPOを実施することで得られるメリットとしては、証券取引所に上場することで、市場からの信頼性を得ることが可能になります。多くの会社が営業を行う時などに「証券取引所に上場している信頼性」を唄っているかと思います。ICO自体はまだまだ過渡期ですし、現時点では、ICOやクラウドファンディングは、この信頼性という点については、IPOに遥かに劣ることになるでしょう。

 そのため、資金調達方法が多様化している昨今においても、今後もこのIPOへの需要や期待が衰えることはないかと思います。

 次回以降のコラムでは、具体的にIPOにおいて押さえておくべきポイントや簡単な流れについて記載していきたいと思います。

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